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NO.40

ちえ熱

平成11年 6月

 「おばあちゃんが言うんですけど、これって“ちえ熱”でしょうか?」

 「“ちえ熱”ねー、学生のときの教科書には“ちえ熱”ってないんですよね。」

と答えていました。

“ちえ熱”を辞書でひくと、“知恵熱”:小児の知恵づこうとする頃、不意に発熱すること。ちえぼとり:とありますが、本当に最近の医学書には“ちえ熱”の項目はまず有りません。

 そして、「知恵がつくからといって、熱が出るはずはない」と思いながらも、“ちえ熱”について上手く説明できないことで、後ろめたさを感じていましたが、“ちえ熱”の事を少し詳しく書いてある本を見つけました。

 医学の父とよばれる、紀元前の学者であるヒポクラテスの本には、乳歯が生える時に歯ぐきがむずがゆくなり、発熱、ケイレン、下痢などを伴なうことが書かれているそうですし、欧米の古い小児科の教科書には「生歯熱」の記録があるそうです。外国の昔のおばあちゃんは、日本の“ちえ熱”の時期の発熱を歯が生えるための熱だ考えていたようです。

 しかし、近年の外国で有名な小児科の教科書や、育児書では「生歯熱」に関しては否定的な意見がほとんどでありました。

 ところが、1992年に英国の小児科専門誌に「生歯熱」を肯定する研究結果が発表されました。

 イスラエルの小児科医が病院を訪れたお母さんに、赤ちゃんの体温を記録してもらったところ、46人の赤ちゃんの乳歯が生える前後の体温が正しく測れ、歯が生えるまでの平均体温は 36.9度から37.1度でしたが、歯が生えた当日は37.6度に上昇したということです。平均体温ですから、高い赤ちゃんは体温が38度を超えていると思います。

 2000年以上まえのヒポクラテスの時代から、おばあちゃんたちは“ちえ熱”なり“生歯熱”という事で納得していた事でしょうが、少なくとも小児科の医者の間では、「そんなことで発熱なんかするはずはない」と考えいた事を、真面目に研究して、世の中に発表してくれた研究者がいることは楽しい気がします。そして、小児科の今までの考えを少し訂正する必要はあるようです。

 しかしながら、「お母さん、これは“ちえ熱”ですよ」と言い切れる小児科の医者はいないような気がします。

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